No Title

説明がいるような、いらないような。
青本こと月姫読本同人版発売直後の作。
一発で、あのにせものの天使に惚れ込んでしまいました。
とは言え、いかんせんマイナーだからなあ、と思いながら数年を過ごし。
『AFTER IMAGE』(WAVE)という作品に関われたことは、ある意味で奇蹟だったように思えます。
全面的にテキストを任せてくれたあの人に、感謝を。
あのテキストを書いていたとき、これに関しては半分だけ頭にあって、だからこそ諸々の都合で表立って出せなかった天使(亜麗)さんを、ああやって無理矢理ゲスト出演させたのでした。
本当は、にせものさんがギターを、亜麗さんが歌を、とやりたかったのですが。


 曰く。
 その街には天使が居るという。
 天使などどこにでもいると思うかもしれない。そう、確かにありふれている、天使という存在は。
 だがしかし。
 それでもなお、人々は言うのだ。
 その街には天使が居ると。

 いつから彼女が其処に居たのか。確かなことを知る者は誰もいない。気がつけば彼女は其処に居たという。
 調子の外れたギターを抱えて歌う、背に翼持つ少女が。
 最初は誰も気に留めなかった。
 物好きなヤツもいるもんだ、と。
 けれど。
 一日がたち、一週間がたち、一月がたち。
 彼女はまだ其処に居た。
 この乾いた世界にはどこか不釣合いの、澄んだ歌声を響かせて。
 誰かが尋ねた。何をしているのか、と。
 彼女は答えた。歌を歌ってるんです。
 至極当然の、答えとも言えないような答え。
 また誰かが尋ねた。何かを待っているのか、と。
 そうですね。そう言って彼女は瞳を閉じた。
 沈黙。
 そうですね、と。もう一度そう言って、彼女は目蓋を上げた。
 探しているんです。そう答えた。
 私が何で、何がしたくて、何を想っていて、何処に行きたいのか。
 探しているんです。そう答えた。
 そして最後に。
 ねえ、あなた天使なの。そんな問いかけに。
 違いますよ。そう、彼女は答えた。
 でも、そう何かを言いかけて。
 やっぱり、違いますよ。そう、彼女は微笑んだ。

 以来、歌がやむ事は無いという。
 探していると答えた彼女は、まだ探し続けているのだろうか。
 それとも。
 
 さて、それはともかくとして。
 この荒廃した世界において、一つの噂がある。
 信じる者、信じない者。
 反応は様々である。
 けれどその噂が消える事は、不思議と無い。
 曰く。
 その街には天使が居るという。